【建設DX】五洋建設が「曲がり削孔AIガイダンスシステム」を開発、熟練の技をデジタルで継承し液状化対策を効率化

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ニュースリリースの紹介と要約

2026年1月16日、五洋建設株式会社(社長:清水琢三)は、ライト工業株式会社(社長:阿久津和浩)と共同で、既存構造物直下での液状化対策に用いる「曲がり削孔式浸透固化処理工法」において、AIを活用した削孔操作支援技術「曲がり削孔AIガイダンスシステム」を開発したことを発表しました。

このシステムは、ディープラーニング(深層学習)を用いて削孔ビットの現在位置をリアルタイムで推定し、設計ラインに沿わせるための最適な操作量をオペレータに提示するものです。現地実証実験では、経験の浅いオペレータが使用した場合でも、削孔精度が約55%向上し、作業時間が約20%短縮されるという、熟練オペレータと同等の施工品質が確認されました。

建設業界が直面する「熟練技能者の減少」という課題に対し、高度な技術をデジタル化して継承する画期的なソリューションとして注目を集めています。

引用元:五洋建設株式会社 ニュースリリース(2026年1月16日)


開発の背景:既存構造物下の施工困難と技術継承の壁

近年、空港の滑走路、大規模工場、主要道路といった重要構造物において、供用を継続しながら地震時の液状化対策を行うニーズが高まっています。しかし、構造物の直下を改良する場合、地上から垂直に削孔することは不可能なため、構造物の脇から斜めに、かつ曲線状に掘り進める「曲がり削孔」が必要となります。

この「曲がり削孔」には、以下のような極めて高い技術的ハードルがありました。

  1. 高度な操作技能の必要性:地盤の硬軟やビットの角度を考慮しながら、三次元的な設計ラインに沿って進めるには、長年の経験に基づく「勘」と「コツ」が不可欠です。
  2. 熟練工の不足:こうした特殊技術を持つベテランオペレータが退職期を迎えており、若手への技術継承が急務となっています。
  3. リアルタイム性の欠如:従来の計測手法では、現在のビット位置を正確に把握するのに時間がかかり、設計ラインからのズレに気づくのが遅れるリスクがありました。

これらの課題を解決するため、五洋建設とライト工業は、蓄積された2,000m以上の施工データと最新のAI技術を組み合わせ、誰でも高精度な施工が可能なシステムの開発に至りました。


他社の類似技術との比較(優位性の検証)

既存構造物下の液状化対策や長距離削孔において、他社も独自の技術を展開しています。ここでは、大林組の「TOFT工法」や鹿島建設の長距離削孔技術と比較し、本システムの優位性を検証します。

1. 工法アプローチの比較

  • 大林組(TOFT工法):地盤を格子状に固化する工法で、液状化防止効果が非常に高いですが、主に新築時や大規模な開削が可能な現場に向いています。既存構造物直下に対しては、構造物脇からのアプローチに制約がある場合があります。
  • 五洋建設・ライト工業(本工法):液体(薬液)を浸透させて固める「浸透固化処理」を曲がり削孔で行うため、構造物を壊さず、供用を止めることなくピンポイントで直下を改良できる点が最大の強みです。

2. 削孔制御技術の比較

  • 鹿島建設(方向制御削孔):最大200mの長距離削孔が可能ですが、主な技術の主眼は位置検出装置や通信技術にあります。
  • 五洋建設(本システム):単なる「位置計測」に留まらず、AIが「次にどうレバーを操作すべきか」をガイダンスする点に独自性があります。これにより、「ベテランにしかできなかった操作」を「若手でも可能な操作」へと民主化した点が技術的な優位性です。
項目 五洋建設・ライト工業(本技術) 大林組(TOFT工法) 鹿島建設(方向制御削孔)
主な特徴 AIによる曲がり削孔の自動ガイダンス 格子状の壁体による地盤変形抑止 200m超の長距離・高精度削孔
得意とする現場 滑走路や重要建築物直下の後施工 大規模建築物や再開発時の液状化対策 障害物が多い都市部や長距離施工
DXの焦点 オペレータの技能支援・AI継承 コスト縮減・工期短縮 遠隔施工・高精度計測
削孔精度向上 AIにより55%向上(実証値) 装置による高精度計測

引用元:大林組 TOFT工法 引用元:鹿島建設 地盤改良技術


現場・設計への影響:導入メリットとデメリット

本システムの導入は、建設現場のオペレーションと設計の自由度に大きな変革をもたらします。

1. 設計への影響

  • 導入の可否:曲線半径が小さい急勾配な設計や、埋設物が多い複雑な地下環境でも導入可能です。
  • メリット
    • 設計自由度の向上:削孔精度が保証されるため、従来は「施工不可」として避けていた狭い隙間を通すような注入ラインの設計が可能になります。
    • 信頼性の確保:AIによる三次元可視化(Gi-CIM連携)により、設計通りに施工されているかを発注者へリアルタイムで証明できます。
  • デメリット
    • 設計コストの微増:精緻なAIガイダンスを活用するためには、事前に詳細な三次元地盤モデルを構築する必要があり、初期の設計・シミュレーション負荷が増える可能性があります。

2. 現場への影響

  • 導入の可否:ライト工業が保有する専用の削孔機にシステムを搭載することで導入可能です。
  • メリット
    • 生産性の向上:判断迷い時間の削減により作業時間が20%短縮されます。
    • 品質の均一化:オペレータの経験によらず、常に許容誤差内に収まる高品質な施工が可能です。
    • 遠隔管理の実現:Gi-CIMとの連携により、事務所から施工状況をモニタリングでき、現場立ち会いの頻度を減らせます。
  • デメリット
    • システム依存のリスク:万が一の通信トラブルやセンサー不具合時のバックアップ体制(人力での復旧手順)を常に準備しておく必要があります。
    • 初期教育コスト:AIガイダンスの画面の見方や、システム特有の癖を理解するための短期間のトレーニングが必要です。

今後の展開予想:自動化から自律化へ

この「曲がり削孔AIガイダンスシステム」の登場は、単なる支援ツールの枠を超え、将来的に以下の3つの方向に進化すると予想されます。

  1. 完全自動削孔の実現 現在はAIが「操作量を提示」し、オペレータがレバーを動かしていますが、次はAIが直接機械を制御する「自動運転(自律削孔)」へと移行するでしょう。五洋建設は既にシールド工事などで自動化を進めており、そのノウハウが本工法にも転用される可能性が高いです。
  2. 地盤情報のリアルタイム更新(デジタルツイン) 削孔中に得られるビットの抵抗値や震動データをAIが解析し、予測していなかった硬い地層や障害物を検知して、リアルタイムに設計ラインを修正する機能の追加が期待されます。
  3. 汎用化とプラットフォーム展開 今回は液状化対策に特化していますが、この「曲がり削孔AI」は地中熱利用のための削孔や、都市部のインフラ整備(電線共同溝など)にも転用可能です。ライト工業との共同開発という強みを活かし、地盤改良業界全体のスタンダード技術となる可能性があります。

結論

五洋建設とライト工業による今回の開発は、建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が、単なる事務作業の効率化ではなく、現場の「技能そのもの」をアップデートする段階に入ったことを象徴しています。熟練工の勘をアルゴリズム化することで、不確実性の多い地中施工において確実な品質とスピードを両立させた意義は極めて大きいです。

今後、南海トラフ地震等の巨大災害対策として既存インフラの補強が急務となる中、このAIガイダンスシステムは日本の国土強靭化を支えるコア技術として、その価値をさらに高めていくでしょう。

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