これまで、多くのトンネル施工の自動化に関する技術を紹介してきました。
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その領域に鹿島建設が新たな角度から切り込んできます。トンネル現場の最前線である「切羽(きりは)」。地山の状況を瞬時に判断し、支保パターンを決定するこの工程は、これまで「ベテランの経験と勘」が支配する領域でした。しかし、その常識が今、大きく変わろうとしています。
鹿島建設が発表した最新の「切羽評価システム」は、若手技術者にとって心強い武器になるのか、それとも現場を縛るものになるのか。ニュースライターの視点で、現場と設計の両面から徹底解説します。
鹿島建設が開発した「切羽評価システム」とは?
鹿島建設が発表した「切羽評価システム」は、山岳トンネル工事において、切羽の岩盤状態(地山性状)をデジタル機器やAIを用いて客観的かつ定量的に評価する技術です。
プレスリリース上では、
「スマートフォンや重機に搭載したセンサーから得られるデータを活用し、風化変質、割れ目性状、走向・傾斜、圧縮強度、湧水量の5項目を自動で分析・評価し、帳票まで自動作成するシステム」 (引用:鹿島建設 プレスリリース 2026年3月4日) とされています。
一言で言えば、「これまで人の目と手で行っていた切羽観察を、AIとセンサーに肩代わりさせる技術」です。

従来工法との違い:主観から客観へ
これまで同様の施工は、主に技術者による目視観察と打音検査で行われていました。
そのため、以下のような課題がありました。
- 課題①:判定の個人差 ベテランと若手では評価の基準が異なり、岩盤の「硬さ」や「割れ目の多さ」の評価が主観に左右されやすく、判断の根拠を説明するのが困難でした。
- 課題②:作業の危険性と事務負担 評価のために切羽直近まで立ち入る必要があり、常に落石の危険と隣り合わせでした。また、現場から戻った後に手書きのスケッチを清書し、帳票を作成する膨大な事務作業が若手の大きな負担となっていました。
「切羽評価システム」では、データに基づいた定量化がなされる点が大きな違いです。 スマートフォンの画像解析技術(JudGeo)で風化度を、吹付け機に搭載したLiDAR(ライダー)で割れ目の向きを、掘削機(ブレーカ)の振動で岩盤強度を測定します。これにより、誰が測っても同じ結果が得られる「標準化」が実現しました。

従来工法と新システムの比較
| 評価項目 | 従来工法(目視・手作業) | 切羽評価システム(本技術) |
|---|---|---|
| 評価の根拠 | 経験に基づく主観 | AI・センサーによる数値データ |
| 走向・傾斜 | クリノメーターによる手動計測 | LiDAR点群データによる自動解析 |
| 岩盤強度 | ハンマーによる打音・感触 | ブレーカの振動加速度データ |
| 帳票作成 | 帰室後の手書き・PC入力 | 現場で自動生成・出力 |
| 安全性 | 切羽直近での作業が必要 | 重機遠隔計測等により立ち入り低減 |
【現場目線】正直どうか
現場目線で見ると、「切羽評価システム」の一番のメリットは、「若手でも自信を持って地山を語れるようになること」です。
メリット①:根拠ある判断ができる
これまでは所長や発注者から「なぜこの支保パターンなのか?」と問われた際、「経験上、こう見えます」としか言えなかった場面でも、「システムによる強度の数値が〇〇で、走向がこうだからです」と、明確なエビデンス(証拠)を示せるようになります。これは若手にとって非常に大きな安心感につながります。
メリット②:残業時間が劇的に減る
次に、事務作業の自動化です。切羽観察記録は、工事写真と並んでトンネル技術者を苦しめる書類の一つですが、これが自動生成されることで、現場から事務所に戻る頃には書類の8割が完成している状態になります。ワークライフバランスの向上に直結するポイントです。
一方で、注意点もあります。それは、「センサーの限界を知ること」です。 トンネル内は粉塵が舞い、照明も限られています。LiDARやカメラは、あまりに霧が深い場合やレンズが汚れている場合には精度が落ちることがあります。 「システムがこう言っているから100%正しい」と盲信するのではなく、違和感を感じた時に自分の目で確かめる「エンジニアリング・ジャッジ」を磨く姿勢は、デジタル時代でも不可欠です。
【設計目線】ここが変わる
設計目線では、「支持パターンのリアルタイム最適化」ができる点が大きいです。
設計で楽になる点:設計変更の合理化
これまで難しかった、「施工中の地質変化に合わせたきめ細やかな設計変更」も、現実的な選択肢になります。 従来は、ある程度の区間をまとめて「地山等級C1」などと決めていましたが、このシステムなら「この1スパンだけ強度が落ちているから補強を強める」といった判断を、客観的な数値データを添えて速やかに行うことができます。
注意すべき点:過剰設計・過小設計のバランス
一方で、「数値に縛られすぎるリスク」には注意が必要です。 例えば、湧水量が一時的に増えただけで、システムが過剰に安全側の判定を下す可能性もあります。設計側としては、システムから上がってくる「点」のデータだけでなく、地質図との整合性や、これまでの掘削傾向という「線」の視点でデータを解釈する能力が、より重要になってくるでしょう。
結論|向いている現場・向いていない現場
結論として、「切羽評価システム」が向いているのは以下のような現場です。
【向いている現場】
- 地質が複雑に変化する現場
- 目視だけでは見落としがちな微細な岩盤変化を数値でキャッチできるため。
- 若手技術者が中心となって運営する現場
- ベテランの「暗黙知」をシステムが補完し、早期のスキルアップを促せるため。
- 急速施工が求められる現場
- 帳票作成の時間を短縮し、サイクルタイムの短縮に寄与できるため。
一方で、以下の現場では効果が出にくい可能性があります。
【向いていない現場】
- 粉塵や湧水が極端に激しく、常に視界がゼロに近い現場
- 光学系センサー(カメラやLiDAR)のメンテナンス頻度が高くなり、手動の方が早い場合があるため。
- 通信環境(坑内LAN)の整備が極端に遅れている現場
- リアルタイムでのデータ連携が本システムの肝であるため、基盤設備が整っていないと宝の持ち腐れになります。
山岳トンネルの現場は、いよいよ「経験」を「データ」で補完する時代に突入しました。このシステムを単なる効率化ツールとしてだけでなく、自分の技術力を裏付けるパートナーとして使いこなせれば、現場での評価は間違いなく高まるはずです。