超高層建て替えの「常識」が変わる。地下工事を1年短縮する新工法「Re-GENUS BASE」の正体

施工技術

建設業界は今、大きな転換期にあります。特に都市部の再開発において、避けて通れないのが「古い建物の解体」と「新しい建物の構築」です。これまでは「全部壊してゼロから造る」のが当たり前でした。清水建設が開発した「Re-GENUS BASE(リジェナス・ベース)」は、その常識を根底から覆す可能性を秘めています。

《Re-GENUS BASE(リジェナス・ベース)》とは?

清水建設が発表したRe-GENUS BASEは、一言で言うと「建て替えの際、古い建物の地下壁や床を、新しい建物を造るための『山留め壁(仮設構造物)』としてそのまま活用する技術」です。

プレスリリース上では、

「既存地下構造物を活用した工期短縮・環境負荷低減を実現する新工法。既存の地下外壁等を山留め壁として利用することで、山留め工事の省略や掘削土量の削減を図り、超高層ビルの建て替えにおいて約1年(13ヶ月)の工期短縮と、CO2排出量の大幅な削減を可能にする」 (引用:清水建設 ニュースリリース 2026年2月13日

とされています。


従来工法との違い

これまで、都心部での超高層ビルの建て替え工事は、主に「全撤去・新規構築」というやり方で行われてきました。

そのため、現場では以下のような課題が常態化していました。

  • 課題①:膨大な「解体・仮設」の時間とコスト 既存の地下構造物をすべて解体するのに数ヶ月、さらに新しい建物を掘るために、もう一度巨大な「山留め壁」を打ち込む必要がありました。同じ場所を二度手間かけて扱っているような状態でした。
  • 課題②:環境負荷の増大 解体に伴う膨大なコンクリート廃材(建設副産物)と、掘削による大量の土砂。これらを運搬・処理するために、毎日何百台ものダンプカーが稼働し、莫大なCO2を排出していました。

Re-GENUS BASEでは、「既存の地下壁を最初から山留め壁として使う」点が大きな違いです。 新しい山留め壁を打つ必要がなく、既存の地下空間をそのまま利用できるため、土を掘り出す量も最小限で済みます。「壊す」と「造る」の間にあった無駄なステップを、一気に飛び越えることができるのです。

【比較表】従来工法 vs Re-GENUS BASE

比較項目 従来工法(全撤去) Re-GENUS BASE
地下工事期間 標準的(長い) 約2割(13ヶ月)短縮
山留め工事 新規に構築が必要 不要(既存壁を活用)
掘削土量 全量を掘削・搬出 大幅削減
環境負荷 CO2・廃棄物が多い CO2を約50%削減
周辺への影響 騒音・振動・ダンプ頻繁 大幅に低減

【現場目線】正直どうか

若手技術者の皆さんが一番気になるのは、「実際に現場に入ったらどうなるの?」という点でしょう。

現場メリット①:地下工事の「地獄の工程」がシンプルになる

現場目線で見ると、Re-GENUS BASEの一番のメリットは、地下工事における重機作業と車両管理の劇的な簡素化です。 地下工事は、杭打ち機、山留め機、土砂搬出のダンプ、生コン車が入り乱れ、最も工程管理が複雑でトラブルが起きやすい場所です。この工法では、巨大な山留め機を搬入・稼働させる必要がなくなり、ダンプの台数も半分程度で済むため、現場の「交通整理」という大きなストレスから解放されます。

現場メリット②:クリティカルパスの短縮による精神的余裕

次に、「1年以上の工期短縮」がもたらす余裕です。 地下工事は台風や大雨などの天候リスクを受けやすく、工期遅延の主因になりがちです。この「リスクの塊」である地下工事の期間が13ヶ月も短くなるということは、プロジェクト全体の安全管理や品質管理にじっくり時間を割けることを意味します。現場監督にとって、これほど心強いことはありません。

現場の注意点:既存構造物との「現合わせ」の難しさ

一方で、注意点もあります。それは、「目に見えない既存部材への対応」です。 古い建物の図面が100%正しいとは限りません。実際に掘ってみたら「図面にない梁が出てきた」「コンクリートの強度が場所によって違う」といった事態が予想されます。これまでの「新しいものを組むだけ」の現場よりも、既存の状況に合わせて臨機応変に施工計画を微調整する「判断力」が、若手にも求められるようになります。


【設計目線】ここが変わる

設計担当にとっても、この工法はパラダイムシフト(価値観の転換)をもたらします。

設計で楽になる点:ESG・カーボンニュートラルへの最強の回答

設計目線では、環境性能という高いハードルをクリアしやすくなる点が大きいです。 昨今の超高層設計では、「どれだけCO2を減らせるか(LCA評価)」が発注者からの必須要件になっています。特殊な低炭素コンクリートを必死に探さなくても、既存の壁を「捨てずに使う」だけで、CO2排出量を50%もカットできるこの工法は、環境設計において非常に強力な武器になります。

設計で考慮すべき点:徹底した「健全性評価」が設計の質を決める

一方で、「既設構造物の適切な健全性評価」には細心の注意が必要です。 数十年前に造られた地下壁が、施工中の土圧に本当に耐えられるのか。これを証明するためには、以下の高度な評価プロセスが不可欠です。

  • サンプリング調査: 既存壁からコアを抜き取り、圧縮強度や中性化深度を詳細に分析する。
  • 非破壊検査: 内部の鉄筋の腐食状況や空隙を最新のセンサーでスキャンする。
  • 構造解析モデルの精緻化: 既存壁と新設構造物が一体となった時の挙動をシミュレーションする。

「古いから壊す」のではなく、「古いからこそ、その実力を科学的に証明して使い切る」という、より高度な技術的誠実さが求められるようになります。


結論|向いている現場・向いていない現場

結論として、Re-GENUS BASEが向いているのは以下のような現場です。

【向いている現場】

  • 都市部の密集地: 山留め工事の振動・騒音を抑えたい、ダンプの出入りを減らしたい現場。
  • 超高層への建て替え: 地下工事の期間がプロジェクト全体の足を引っ張っている大規模現場。
  • 地下階数が多い既存建物: 活用できる「既存の資産(壁や床)」が多いほど、メリットが最大化されます。

【向いていない現場】

  • 既存図面が全く残っていない現場: 健全性評価のコストがメリットを上回ってしまう可能性があります。
  • 地下が極端に浅い建物: そもそも山留め工事の負担が小さいため、新工法を採用するコストメリットが出にくいです。

この技術は、単なる工期短縮の手段ではありません。建設業が「地球に優しく、かつ効率的であること」を証明するための、未来のスタンダードになる技術です。若手の皆さんも、今のうちから「既存の建物をどう活かすか」という視点を持っておくことで、これからのキャリアにおいて大きな強みになるはずです。

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