山岳トンネル工事の現場に激震が走るニュースが飛び込んできました。大手ゼネコンの大成建設が、これまで「不可能」あるいは「最も危険」とされてきた発破作業の完全自動化において、決定的な一手を打ち出しました。
建設業界に入ったばかりの皆さんに、この技術がどれほど「現場の景色を変えるのか」を詳しく解説します。
《装薬ユニット》とは?
大成建設が2026年2月19日に発表した「装薬ユニット」は、一言で言うと「ドリルジャンボの運転席に座ったまま、削孔から爆薬の装填(装薬)までを1人で完結させる技術」です。
プレスリリース上の公式な説明(要約)は以下の通りです。
「既存のドリルジャンボに搭載可能な本装薬ユニットと、無線電子雷管対応の爆薬装填装置『T-クイックショット』を組み合わせることで、オペレーター1名が運転席から一連の作業を連続して行うことができる。これにより、切羽近傍への立ち入りを不要にし、安全性と生産性を大幅に向上させる技術である。」 (引用:大成建設 プレスリリース)
これまで、岩盤に穴を開ける「削孔」は機械化が進んでいましたが、その穴に爆薬を詰め、雷管を繋ぐ「装薬」の工程は、どうしても人の手が必要でした。今回の技術は、その「最後の聖域」を機械化したものです。

従来工法との違い
これまで、山岳トンネルの施工における発破準備は、主に以下の「人力主体のやり方」で行われてきました。
- ドリルジャンボで削孔(穴あけ)
- 作業員が切羽(掘削最前線)に近づき、火薬と雷管を1つずつ穴に挿入
- 雷管から伸びる何十本もの脚線を、手作業で結線していく
そのため、現場には常に以下の課題がありました。
従来の課題①:切羽直下での「肌落ち」リスク
掘ったばかりの岩盤(切羽)は非常に不安定です。作業員がその直下に立って装薬作業を行う際、岩石が剥がれ落ちる「肌落ち」による重大災害のリスクが常に隣り合わせでした。
従来の課題②:作業時間のばらつきと属人性
装薬や結線のスピードは、作業員の熟練度に依存します。疲労や環境によって施工サイクルが変動しやすく、工期管理を難しくさせる要因となっていました。
現在、山岳トンネル工事の自動化は、建設各社がしのぎを削って技術開発を競っている分野でもあります。大成建設以外にも、多くの企業が独自のシステムで「切羽の無人化」を目指しています。
- 参考:建設業界の最新動向①
- 参考:建設業界の最新動向②
今回の《装薬ユニット》では、「無線電子雷管(ウインデット®Ⅱ)」を採用することで、物理的なワイヤーの結線作業を完全に排除した点が、従来との決定的な違いです。

従来工法 vs 自動装薬システム
| 比較項目 | 従来工法 (手作業) | 大成建設:自動装薬システム |
|---|---|---|
| 安全性 | 切羽直下での作業が必要(肌落ちリスク高) | オペレーター1名が運転席で操作(無人化) |
| 作業人数 | 数名の装薬工・補助員が必要 | オペレーター1名のみ |
| 結線作業 | 有線雷管を1本ずつ手作業で結線 | 無線電子雷管により結線不要 |
| 施工精度 | 作業員の経験・技能に依存 | 穿孔データと連動した高い再現性 |
| 準備負担 | 特殊な機材設定は不要 | 高度な測量データとシステム調整が必要 |
【現場目線】正直どうか
若手技術者が現場でこの技術に触れる際、一番気になるのは「本当に使えるのか?」という点でしょう。
現場メリット①:究極の安全確保(精神的ストレスの解放)
現場監督として最も怖いのは、自分の現場で事故が起きることです。この技術の導入により、最も危険な「切羽45度範囲(崩落の危険が高いエリア)」に人を入れなくて済むようになります。 「今日、誰かがケガをするかもしれない、自分が重傷を負うかもしれない」という切羽特有のプレッシャーから解放されることは、現場管理において計り知れないメリットです。
現場メリット②:施工サイクルの「標準化」
ベテラン作業員の「勘」に頼らず、機械がデータ通りに装薬を行うため、作業時間が一定になります。これにより、24時間体制で繰り返されるトンネル施工のサイクルが安定し、若手技術者でも精度の高い進捗管理が可能になります。熟練工の減少が課題の中、無視できないメリットです。
【現場の注意点】
一方で、注意すべき点も明確です。それは、「事前のデータ入力とキャリブレーション(精度調整)の重要性」です。 機械が自動で穴を探して爆薬を詰めるため、施工前の測量やシステム設定には、これまで以上の精密さが求められます。 「ボタンを押せば終わり」ではなく、「正しく動くためのお膳立て」が若手の新たな重要業務になるでしょう。
【設計目線】ここが変わる
設計を担当する立場からも、この技術は大きな変革をもたらします。
設計で楽になる点:余掘りの低減とコンクリート量の最適化
自動穿孔と自動装薬が連動することで、設計値(計画されたトンネルの形)に対して極めて正確な爆破が可能になります。 従来は、手作業の誤差を見越して少し多めに掘る「余掘り」が発生しがちでしたが、これを最小限に抑えられます。その結果、後工程で埋めるための「覆工コンクリート」の量を設計値に近づけることができ、材料費の削減と品質向上に直結します。
これまで現場の誤差を考慮して避けていた「より複雑な断面形状」や「シビアな爆破計画」も、機械による高い再現性があれば、現実的な設計選択肢として検討できるようになります。
【設計側で考慮すべき点】
注意が必要なのは、「無線通信環境の確保」です。 無線電子雷管を使用するため、トンネル坑内の電波環境を設計段階から考慮する必要があります。中継器の配置や、使用する周波数帯が他の重機の無線と干渉しないかなど、ICT施工特有の検討事項が増えることになります。
結論|向いている現場・向いていない現場
【向いている現場】
- 岩質が安定しない、崩落リスクの高い現場 (安全性のメリットが最大化される)
- 延長が長く、施工サイクルの安定が求められる長大トンネル (繰り返しの自動化による生産性向上の恩恵が大きい)
- 熟練の装薬工を確保することが難しい地方の現場
【向いていない現場】
- 極端に断面が小さく、大型の装薬ユニット搭載ジャンボが展開できない現場
- 地質が極端に複雑で、一孔ごとに装薬量を細かく変更し続けなければならない現場 (現在の自動化システムでは、標準化されたパターンでこそ真価を発揮するため)


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