建設業界に足を踏み入れたばかりの皆さん、日々の現場管理お疲れ様です。特に「コンクリートの点検」と聞いて、どんなイメージを持ちますか? 「暗い場所でクラックスケールを当て、ひたすら手書きでスケッチする……」 そんな、ある種「修行」のようなアナログ作業が、今まさに消えようとしています。
清水建設、リコー、リコージャパンの3社が発表した、デジタルツインとAIを掛け合わせた最新のひび割れ点検システム。これが私たちの働き方をどう変えるのか、先行する鹿島建設の技術とも比較しながら、現場のリアルな視点で徹底解説します。
《デジタルツイン×AIによるひび割れ点検システム》とは?
清水建設が発表したこの技術は、「カメラで撮るだけで、デジタル上の3Dモデルにひび割れ情報が自動で刻み込まれる」という、点検のフルオートメーション化を目指す技術です。
プレスリリース上では、
「発電所などの重要なインフラ施設を対象に、AIとデジタルツインを活用したコンクリート構造物のひび割れ点検システムを構築しました。画像からひび割れをAIが自動検出し、デジタルツイン上に長さ・幅・位置情報などのデータを自動で取り込み、見える化します」 (引用:清水建設 ニュースリリース 2026/01/28)
とされています。これまでは「点検」と「記録」が別々の作業でしたが、これを「撮影」という一つのアクションに統合したのが最大の特徴です。

従来工法との違いと現状の問題点
これまで同様の施工(点検)は、主に「目視点検と手書きスケッチ、そしてPCへの手入力」という、極めて属人的かつアナログなやり方で行われてきました。
問題点①:膨大な拘束時間と身体的負担
広大な発電所施設や地下構造物において、ひび割れを一つひとつ計測するのは気の遠くなる作業です。ひび割れにクラックスケールを当て、野帳(手帳)にスケッチし、写真を撮る。この一連の動作を、数千、数万箇所で行う必要があります。夏場や冬場の過酷な環境下での単純長作業の繰り返しは、なんのために働いてるのかと若手が考え離職の原因にもなります。
問題点②:データの散逸とヒューマンエラー
現場でメモした野帳を事務所に持ち帰り、ExcelやCADに打ち直す作業も大きな壁です。この「転記」の過程で、数値の読み間違いや、写真と箇所の取り違えが頻繁に発生します。「この写真は、どの柱のどの高さだったか?」という確認だけで数時間を浪費することも珍しくありません。
従来手法と最新技術の比較表
| 比較項目 | 従来手法(目視・手書き) | 清水建設(デジタルツイン×AI) | 鹿島建設(BMSTAR_AI) |
|---|---|---|---|
| 主な作業内容 | クラックスケールによる計測と野帳への手書きスケッチ | デジタルツイン空間への高解像度画像の自動マッピングとAI解析 | AI画像解析エンジンによるひび割れの自動抽出と図面化 |
| 位置管理 | 図面と照らし合わせながら手動で記録(ズレが発生しやすい) | デジタルツイン上の座標と画像が完全に一致し、自動配置される | 既存のCADデータや写真の位置情報を活用し精度高く管理 |
| 現場での役割 | 計測者(体力・忍耐が必要) | 撮影者およびAIのジャッジ役(ITリテラシーが必要) | 撮影者および解析データの確認役(構造知識が必要) |
| 維持管理への活用 | 過去資料との比較が困難(紙ベースの管理) | 時間軸に沿った劣化予測・シミュレーションが可能 | 損傷リストの自動生成により補修計画の迅速化が可能 |
各社の技術や以前に紹介した、鹿島建設の「BMstar」との比較は以下の記事で行っています。
(2026年最新】清水建設がデジタルツインでインフラ点検を劇的効率化!鹿島「BMStar_AI」との違いを徹底検証)
【現場目線】導入によるメリット
現場での写真撮影、事務所に戻っての整理。若手技術者の誰もが通る道ですが、あまり気のりしない業務ですよね。その苦行から逃れる選択肢がこの技術によって生まれます。
メリット①:現場滞在時間を劇的に短縮
最大の変化は、現場で行う作業が「計測」から「撮影」に変わることです。ひび割れ箇所を高解像度カメラで撮影さえすれば、長さや幅の計測はAIが行います。これにより、現場での作業時間は従来の数分の一に短縮されます。空いた時間を、安全管理や工程管理といった、よりクリエイティブな監督業務に充てることが可能になります。
メリット②:検査結果と位置情報の自動一致
このシステムの核心は、デジタルツイン空間(3Dモデル)への自動配置です。撮影した画像が、建物のどの位置のものかをシステムが自動的に判別し、3Dモデル上にマッピングします。これにより、「迷子写真」がゼロになります。整理作業のために深夜まで残業する必要がなくなる、上司から怒られないと若手にとって最も嬉しいメリットと言えるでしょう。
【現場目線】正直な注意点
一方で、魔法のような技術にも「現場ならでは」の注意点が存在します。
注意点①:写真のクオリティが全てを決める
AIは万能ではありません。「ピンぼけ」「手ブレ」「露出不足(暗い)」写真は、解析不能となります。従来の点検では「なんとなく写っていれば人間が判断できた」ものが、AI点検では「撮影技術」が点検精度を左右することになります。適切な照明機材の使用や、ピント合わせの徹底など、新たなスキルが求められます。
注意点②:AIの誤検出に対する「審判」の目
AIは、コンクリートの打ち継ぎ目や表面の汚れ、結露の跡などをひび割れと誤認することがあります。システムが「ここにひび割れがある」と判定しても、最終的にそれが構造的な欠陥なのか、ただの汚れなのかを判断するのは技術者の役割です。AIの結果を鵜呑みにせず、ジャッジする「目」を養う必要があります。
【設計・管理目線】ここが変わるメリット
設計や維持管理を行う部署にとっても、デジタルツイン化は革命的な変化をもたらします。
メリット①:補修数量の即時算出
デジタルツイン上にひび割れがデータとして蓄積されるため、補修に必要な材料の数量(長さ×幅)を瞬時に集計できます。これまでは図面から一本ずつ拾い出していた作業が自動化され、精度の高い積算と発注が可能になります。
メリット②:4次元的な経年変化の可視化
「時間軸」を加えた管理が容易になります。次回の点検時に同じ場所を撮影すれば、AIが前回のデータと比較し、「ひび割れが何ミリ成長したか」を自動で判定します。これにより、インフラの寿命を予測する「予防保全」が現実的なものとなります。
【設計・管理目線】考慮すべき注意点
注意点①:データハンドリングの高負荷
高解像度画像と精密な3Dモデルを扱うため、扱うデータ量は膨大になります。これをスムーズに動かすためには、ハイスペックなPC環境と、大容量のサーバー環境が不可欠です。既存の事務用PCでは太刀打ちできない場合があり、インフラ整備のコストを考慮する必要があります。
注意点②:BIM/CIMリテラシーの要求
出力されるデータはCADやBIMツールと連携します。設計担当者には、単なる2D図面作成スキルだけでなく、3Dモデルを維持管理に活用するためのBIM/CIMリテラシーがこれまで以上に強く求められるようになります。
競合技術との比較(鹿島建設:BMSTAR_AI)
建設DXの分野では、他社も強力な技術を開発しています。例えば鹿島建設の「BMSTAR_AI」は、特に橋梁点検において高い実績を持っています。
橋梁点検のDX革命!鹿島建設の「BMSTAR_AI」とは?若手向け解説
清水建設のシステムが「建物全体のデジタルツイン化と多目的な空間管理」に重点を置いているのに対し、鹿島建設の技術は「橋梁という特定の構造物に対するAI解析の深化」に強みがあります。現場の種類によって、どのゼネコンのどの技術が最適かを見極める必要があります。
結論|向いている現場・向いていない現場
結論として、清水建設の《デジタルツイン×AI点検》が最大限の効果を発揮するのは以下のような現場です。
【向いている現場】
・原子力発電所、大規模ダム、巨大工場:コンクリート壁面が膨大で、かつ長期にわたる安全管理が至上命題とされる現場。
・高精度なBIM/CIMモデルが既にある現場:既存の3Dモデルを活用することで、導入コストを抑えつつ、デジタルツインの恩恵を最大化できます。
・人手不足が深刻な遠隔地のインフラ:撮影さえ現地で行えば、解析は事務所や本社で実施できるため、人員の有効活用が可能です。
【向いていない現場】
・小規模・単発の補修工事:数カ所のひび割れを直すだけの現場では、カメラのセットアップやシステム利用料の方が高くついてしまいます。
・極端な狭小部や遮蔽物が多い場所:カメラの画角が確保できない場所では、AIによる正確な位置特定や解析が困難になります。
ライターから若手技術者へのメッセージ
新しい技術が出ると「自分の仕事が奪われるのでは?」と不安になるかもしれません。しかし、現実は逆です。 AIがひび割れを見つけてくれても、「そのひび割れが構造的に危険なのか、放置していいものか」を最終的に判断し、補修の段取りを組むのは、現場を知る皆さんにしかできません。
アナログな「作業」はAIに任せ、皆さんは「技術者としての判断」に時間を使う。そんなスマートな次世代の現場監督を目指してみませんか?


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