1. ニュースリリースの紹介と要約
前田建設工業株式会社は2026年1月19日、ダム工事におけるコンクリートの打ち継ぎ面処理を自動化する「自動グリーンカットマシン」を開発したと発表しました。
【ニュースのポイント】
- 重労働の自動化: コンクリート表面の脆弱層(レイタンス)を除去する過酷な「グリーンカット作業」を自動化。
- ハイブリッド工法: 自動施工マシンと化学的処理(凝結遅延剤)を組み合わせ、型枠付近の複雑な箇所にも対応。
- 働き方改革の推進: 休日前のコンクリート打設が可能となり、年間の施工可能日数が約1.3倍に向上。
- 実証実験の成功: 岐阜県の内ケ谷ダム本体工事にて、良好な打ち継ぎ品質と自動施工の安定性を確認。

引用元:前田建設工業 ニュースリリース(2026/01/19)
2. 開発の背景:ダム工事の「土曜日の壁」と担い手不足
ダム建設において、コンクリートを高く積み上げていくためには、先に打設したコンクリートと次に打設するコンクリートを一体化させる「打ち継ぎ」が極めて重要です。この際、表面に浮かび上がる「レイタンス」と呼ばれる脆弱な膜を、硬化が始まる翌日にブラシや高圧洗浄で削り取る作業が「グリーンカット」です。
これまで、この作業には以下の大きな課題がありました。
- 過酷な労働環境: 広大な打設面(ブロック)を中腰や人力で処理する必要があり、作業員の身体的負担が非常に大きい。
- 休日の制約: グリーンカットは「打設の翌日」に行う必要があります。そのため、日曜を休工日にする場合、土曜日のコンクリート打設ができなくなる(日曜日に作業員が出てグリーンカットをしなければならないため)という、いわゆる「土曜日の壁」が存在していました。
- 週休2日制への対応: 国土交通省が進める建設業界の「働き方改革」により、週休2日の確保が必須となる中、休日を挟む施工サイクルの構築が急務となっていました。
3. 他社技術との比較:アプローチの違い
ダム工事の自動化・省人化は大手ゼネコン各社が注力している分野ですが、そのアプローチは「機械化」と「化学的処理」に分かれます。
| 企業名 | 技術・工法名 | 特徴 | 休日対応のアプローチ |
|---|---|---|---|
| 前田建設工業 | 自動グリーンカットマシン | 汎用ロボットに専用アタッチメントを装着。GNSSによる自動走行。 | 【ハイブリッド】機械自動化 + 96時間遅延剤の併用。 |
| 清水建設 | ルガゾール-919UR | 超高機能な凝結遅延剤。レイタンスの硬化を72時間抑制。 | 【化学的処理】薬剤により月曜まで硬化を遅らせ、休日明けに処理。 |
| 大成建設 | グリーンカットロボット | ダム堤体用のレイタンス処理専用ロボット。 | 【機械化】ロボットによる省人化・自動化を主眼。 |
| 鹿島建設 | K-Eye | 画像解析でグリーンカットの品質を自動判定する技術。 | 【品質管理】自動化施工における品質保証のデジタル化。 |
前田建設の優位性
前田建設の技術の最大の特徴は、「機械自動化」と「化学的処理」を組み合わせた点にあります。 清水建設の薬剤手法は休日対応に優れますが、最終的な洗浄作業自体は必要です。一方、前田建設は広範囲をロボットで自動処理し、機械が入り込めない型枠際(端部)だけを遅延剤で後日処理にするという「使い分け」により、施工効率と休日確保の両立において非常に現実的かつ高度な解を提示しています。
4. 現場・設計への影響:導入のメリットと課題
この技術の導入は、ダム工事の設計・施工サイクルを根本から変える可能性があります。
導入の可否とメリット
- 施工計画(メリット): 従来、土曜日の打設は「日曜出勤」か「打設中止」の二択でしたが、本マシンの導入により「土曜打設→日曜完全休工」が可能になります。これにより、工程表の柔軟性が飛躍的に高まります。
- 生産性(メリット): 年間施工可能日数が1.3倍になることで、工期短縮が期待できます。これは、出水期(大雨の時期)などの制約が多いダム工事において、クリティカルパスの短縮に直結します。
- 品質の均一化(メリット): 手作業ではムラが出やすいグリーンカットですが、GNSS制御のロボットが一定の速度・圧力で施工するため、打継面の品質が安定します。

デメリットと導入の課題
- 初期コストとインフラ整備: GNSSの受信環境や、現場内での無線LAN環境(Wi-Fi等)の構築が必須となります。山間部のダム現場では通信環境の整備に一定のコストがかかります。
- 端部の手作業残存: マシンは大型(ベースマシン:ROBOCUT)のため、隅部の完全自動化は難しく、依然として一部に手作業や小型ポリッシャーでの仕上げが残ります。
- メンテナンス体制: 泥やコンクリート飛沫が飛ぶ過酷な環境下で精密機械(カメラ・PC)を稼働させるため、現場での日常的なメンテナンス負荷が懸念されます。

5. 今後の展開予想:品質判定まで含めた「完全自動化」へ
前田建設は今後、このシステムをさらに進化させ、「実作業から品質判定までの一連の流れを自動で行う」ことを目指しています。
今後のトレンド予想
- AIによる品質評価の統合: 現在は人間が行っている「削り具合の確認」を、搭載されたカメラとAIがリアルタイムで判定し、不足があればその場で再施工する仕組みが実装されるでしょう。
- マルチロボット連携: 複数の自動グリーンカットマシンが協調して動作し、数千平米の打設面を数時間で完了させる大規模ダム向けパッケージ化が進むと考えられます。
- 他工種への転用: この技術(自動走行+研磨・洗浄アタッチメント)は、橋梁の床版処理やトンネルのインバート施工など、他の土木構造物の打ち継ぎ処理にも応用される可能性が高いです。
前田建設工業の今回の成果は、単なる「作業の置き換え」ではなく、「建設現場の工場化(オートメーション)」を象徴する重要なステップと言えるでしょう。
【ライターより】 今回の発表は、単なる省人化技術にとどまらず、建設業界が直面する「働き方改革」と「工期確保」という矛盾する課題を、技術のハイブリッド化によって解決しようとする極めて合理的なアプローチです。現場のデジタル化(DX)を推進する上で、今後他社がどのような「対抗技術」を打ち出してくるのか、非常に注目される分野です。


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