ニュースリリースの紹介と要約
2026年1月29日、株式会社安藤・ハザマ(以下、安藤ハザマ)は、都市部における緑地設計を劇的に効率化する支援システム「UUell(ウェル)」を開発したと発表しました。
本システムは、設計者が直面する「適切な樹木の配植位置」や「樹種選定」といった複雑な課題に対し、3Dモデルや日照解析を活用して的確なソリューションを提示するものです。特に東京都の自然保護条例などの厳しい基準に則した設計を強力にサポートし、環境性能とデザイン性を両立した緑化計画を迅速に策定することを可能にします。
主な機能は以下の4点です。
- 緑化基準の自動算出:必要緑化面積や樹本数を即時に把握。
- 樹木の自動配植:将来の成長を見越した高木・中木・低木の最適配置。
- 環境適応型の樹種提案:日照解析に基づき、耐陰性などを考慮した最適な種を提案。
- アラート機能:建物との離隔距離や設定条件の不備をリアルタイムで通知。
引用:緑地設計支援システム「UUell(ウェル)」を開発 | 安藤ハザマ
開発の背景:ネイチャーポジティブへの転換と設計現場の逼迫
現在、建設業界を取り巻く環境は「カーボンニュートラル」から、さらに一歩進んだ「ネイチャーポジティブ(自然再興)」への対応が求められるフェーズに突入しています。2022年の生物多様性条約締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」や、企業に自然関連情報の開示を求める「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」の普及により、不動産の価値評価において「豊かな緑地」が不可欠な要素となっています。
しかし、実際の設計現場では以下のような課題が山積していました。
- 複雑な条例対応:特に東京都などの都市部では、敷地面積に応じた緑化率や樹本数の規定が厳格であり、手計算での確認と修正に多大な時間を要する。
- 成長予測の難しさ:樹木が数十年後にどれほど成長し、建物や隣接木と干渉するかを予測するには高度な専門知識が必要。
- 日照条件の不一致:建物の影になる場所への植栽ミスにより、竣工後に樹木が枯死するリスク。
- 若手設計者の経験不足:ベテランの感性に頼っていた配植設計を、定量的な根拠に基づいて行うツールが不足していた。
安藤ハザマは、これまで培ってきた生物多様性評価ツール「いきものプラス」等の知見を活かし、設計の「初期段階」からこれらすべての制約をクリアできる実務特化型のシステムとしてUUellを開発しました。
他社の類似技術との比較
緑地設計支援や生物多様性評価の分野では、大手ゼネコン各社も独自の技術を展開しています。安藤ハザマの「UUell」が持つ優位性を、他社の主要技術と比較して検証します。
主要他社の技術一覧
- 竹中工務店:Optree(オプツリー) 2025年に発表されたシステム。AIと最適化アルゴリズムを用い、暑熱環境(ミストや風)や景観を最適化する「環境性能最大化」に強みを持つ。
- 大成建設:森コンシェルジュ 地域の伝統的な植生遷移(鎮守の森など)のデータベースに基づき、その土地本来の生態系を再現する「在来種選定」に特化。
- 清水建設:都市エコロジカルネットワーク評価システム GIS(地理情報システム)を活用し、周辺地域との緑のつながり(エコロジカルネットワーク)を広域的に分析することに長けている。
- 大林組:UE-Net 鳥類や蝶類の移動経路をシミュレーションし、生物の住みやすさを定量評価するツール。
UUellの優位性:実務・法規への徹底したフォーカス
UUellの最大の特徴は、他社が「環境性能の最大化」や「生物の呼び込み」といった「付加価値」に重きを置く中で、**「設計実務の完遂(条例遵守と将来トラブルの回避)」**という最も泥臭く、かつ重要なプロセスを自動化した点にあります。
| 比較項目 | 安藤ハザマ (UUell) | 竹中工務店 (Optree) | 大成建設 (森コンシェルジュ) |
|---|---|---|---|
| 主な活用フェーズ | 基本設計〜実施設計(実務特化) | 企画〜基本設計(性能最適化) | コンセプト策定(植生選定) |
| 独自機能 | 条例適合アラート・成長干渉チェック | AIによる500パターン超の高速比較 | 植生遷移データベース |
| 設計者への恩恵 | 計算・修正作業の大幅削減 | 温熱・風環境の定量的証明 | 専門外でも最適な在来種を選定可能 |
引用:
現場、設計への影響:導入の可否とメリット・デメリット
UUellの導入は、建設プロジェクトの川上から川下まで広範囲に影響を及ぼします。
設計段階への影響
【メリット】
- 試行錯誤の高速化:従来、設計変更のたびに再計算していた緑化面積や樹本数が即座に更新されるため、デザインのブラッシュアップに時間を割けるようになります。
- 品質の均一化:経験の浅い若手設計者でも、システムのアラート機能(離隔距離不足や耐陰性不一致など)に従うことで、ベテラン層と同等の堅実な配植計画が可能です。
- 合意形成の迅速化:3Dモデルでの提示により、施主に対して「10年後の緑の姿」を視覚的に説明でき、納得感の高い提案が行えます。
【デメリット】
- 初期設定の工数:敷地条件や特定の独自ルールをシステムに入力する手間が発生します。
- デザインの画一化リスク:システムの提案に従いすぎることで、どの物件も似たような配植パターンに陥る「ツールへの依存」が懸念されます。
施工・現場および維持管理への影響
【導入の可否】
- 導入すべきケース:東京都内の再開発、CASBEE/BELS等の環境認証取得案件、維持管理コストを抑えたい商業施設など。
- 導入を見送るケース:極小規模な戸建住宅、植栽を伴わない純粋なインフラ構造物。
【メリット】
- 手戻りの防止:設計段階で建物や他設備(受変電設備や配管等)との干渉がチェックされているため、現場での「植えられない」といったトラブルが激減します。
- メンテナンス負荷の軽減:日照条件に合致した樹種が選定されているため、竣工後の枯死や植え替えのリスクを最小限に抑えられます。
【デメリット】
- 施工精度の要求:デジタルモデルに基づいた精密な配植が求められるため、現場での測量・位置出しに高い精度が要求される可能性があります。
今後の展開予想
安藤ハザマの「UUell」開発を皮切りに、建設業界の緑地設計は以下の方向へ進化していくと予想されます。
- BIM/CIMとの完全統合 現在は独立したシステムとしての運用が主ですが、今後は建築BIM(Building Information Modeling)と完全に同期し、空調負荷計算(樹木の遮光効果による冷房負荷低減)やLCA(ライフサイクルアセスメント)における炭素固定量の算出まで自動化されるでしょう。
- 対象エリアの全国拡大 現在は東京都の条例を主眼に置いていますが、今後は各自治体独自の緑化基準をプラグイン形式で追加できるようになり、全国のプロジェクトで汎用的に利用されるプラットフォーム化が進むと考えられます。
- リアルタイム成長モニタリングへの発展 設計時の3Dデータ(Digital Twin)を竣工後の維持管理に引き継ぎ、センサーやドローンで取得した実際の成長データと照合。剪定時期の予測や、病害虫の早期発見を支援するサービスへの拡張が期待されます。
結論
安藤ハザマの「UUell」は、単なる「環境配慮」のツールではなく、人手不足と高度化する法規制に苦しむ設計現場を救う「実務直結型DXツール」です。他社が「理想の緑地」を追求する中で、安藤ハザマは「失敗しない、確実な緑地設計」という現実的な解を提示しました。このアプローチは、今後ネイチャーポジティブを経営目標に掲げる多くの企業にとって、強力な武器となるはずです。


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