【現場DX】熟練の「勘」をAIが継承。五洋建設の「曲がり削孔AIガイダンスシステム」で変わる土木の未来

AI

建設業界では今、大きな転換期を迎えています。特に、地中をミリ単位の精度で掘り進める「曲がり削孔」の技術は、これまで一握りの熟練技能者の経験に頼り切っていました。

しかし、2026年1月16日、五洋建設はこの熟練技能をAIで再現し、誰でも高精度な施工を可能にするシステムを発表しました。若手技術者の皆さんがこれから向き合うことになる、この革新的な技術の全貌を解説します。


《曲がり削孔AIガイダンスシステム》とは?

五洋建設株式会社が発表した**「曲がり削孔AIガイダンスシステム」**は、地中を曲げながら掘り進める「曲がり削孔」において、AIが最適な掘進ルートと操作方法をリアルタイムでナビゲートする技術です。

プレスリリース上では、以下のように定義されています。

「過去の施工データとリアルタイムの掘進データをAIが分析し、目標とする計画線に沿って掘り進めるための最適なビット(先端カッター)の向きや、操作のタイミングをオペレーターに提示するシステム」 (引用:五洋建設 プレスリリース 2026.01.16

これまで、地中の硬さの変化やビットの「逃げ」を予測して操作するのは、まさに「職人芸」の世界でした。このシステムは、その目に見えない感覚を数値化・可視化したものです。


従来工法との違い

これまで同様の施工は、主に**「熟練オペレーターによる手動操作」**で行われていました。

そのため、

  • 【課題①】属人化と技能継承の困難さ:数十年かけて培った「感覚」を若手に伝えるのは難しく、ベテランの引退とともに技術が失われるリスクがありました。
  • 【課題②】施工精度のバラつき:オペレーターの体調や経験値により、計画線からのズレ(蛇行)が発生しやすく、修正のための手戻り(掘り直し)が生じることもありました。

といった問題がありました。

**「曲がり削孔AIガイダンスシステム」では、「AIが数手先を予測してガイドを出す」**点が大きな違いです。

従来のやり方が「ズレてから直す」という後追いだったのに対し、本システムは「ズレる前に予測して操作する」という先回りの施工を可能にします。

比較表:従来工法 vs AIガイダンスシステム

比較項目 従来工法(手動) AIガイダンスシステム
操作の根拠 オペレーターの経験と勘 AIによるデータ分析・予測
施工精度 個人差が大きく、蛇行しやすい 常に高い精度で計画線を維持
教育コスト 一人前になるまで10年以上の経験が必要 若手でも早期に高度な操作が可能
手戻りリスク 修正掘削が発生しやすい 予測制御により最小限に抑制

【現場目線】正直どうか

現場目線で見ると、この技術の導入は大きな期待がある一方で、向き合い方には工夫が必要です。

メリット①:担い手不足、熟練工不足の解消

現場で最も切実なのは「人がいない、技術が伝わらない」という問題です。このシステムがあれば、これまでベテランに付きっきりで教わらなければならなかった高度な操作を、若手でも一定水準以上でこなせるようになります。これは、現場の「精神的プレッシャー」を大きく軽減します。

メリット②:施工精度の向上

「真っ直ぐ、あるいは狙い通りに曲げる」というのは、地中の不確実性を考えると非常に神経を使う作業です。AIが「今はビットをこの角度にキープすべき」と示してくれるため、手戻りが減り、結果として工期の遵守と安全性の向上につながります。

注意点:未知の地盤への対応

一方で、注意点もあります。それは、**「過去のデータにない、全く未知の地盤への対応」**です。 AIは学習したデータに基づき予測を行います。そのため、想定外の硬岩が現れたり、複雑な地層の変化がある場所では、AIのガイドが最適解にならない可能性があります。

「AIが出しているから絶対安心」と過信せず、最終的な判断は地山の状況を見ながら人間が行うというスタンスが、若手技術者には求められます。


【設計目線】ここが変わる

設計目線では、**「施工誤差の考慮を最小限に抑えられる」**という点が非常に大きいです。

これまで難しかった、**「既存構造物や既設管路が密集する直下を通るルート」**も、現実的な選択肢になります。これまでは「施工のバラつき」を見込んで余裕を持った離隔距離を確保していましたが、AIによる高精度な制御が前提となれば、よりタイトで効率的なルート設計が可能になります。

また、複雑なS字カーブを伴うような難易度の高い線形でも、施工の実現性が担保されるため、設計の自由度が格段に向上します。

一方で、設計側で考慮すべき点として、システムのセットアップやデータ連携のための準備期間、また地盤調査の精度向上が挙げられます。AIに正しい判断をさせるためには、入力となる地盤情報がこれまで以上に重要になるからです。


結論|向いている現場・向いていない現場

結論として、この「曲がり削孔AIガイダンスシステム」がその真価を発揮するのは以下のような現場です。

【向いている現場】

  • 市街地の近接施工:既設構造物が多く、ミリ単位の精度が要求される現場。
  • 長距離・複雑線形の現場:人間の集中力だけでは限界がある、長時間の精密操作が必要な現場。
  • 若手主体で構成されるチーム:技術伝承を加速させ、早期に施工体制を安定させたい現場。

【向いていない現場】

  • 地質が極めて複雑・不明瞭な現場:過去のデータが通用せず、AIの予測精度が低下する恐れがある現場。
  • 極めて小規模・単純な直線掘削:システムの導入・設定コストが見合わない簡易な現場。

まとめ

五洋建設の「曲がり削孔AIガイダンスシステム」は、若手技術者にとって「頼れる相棒」のような存在になるはずです。技術を「ブラックボックス」にするのではなく、AIの力を借りながら現場の感覚を身につけていく。そんな新しい土木の働き方が、ここから始まっています。

(参照リンク:五洋建設 ニュースリリース 2026年1月16日

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